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人間の素晴らしさを皆さんに伝えたい 仏像ガールインタビュー

2010年9月28日

広報活動 

人間の素晴らしさを皆さんに伝えたい
(対談)仏像ガール®×戸松義晴

中学生で父の死を経験して仏像ガール®。
死をきっかけに自身のいのちを見つめ、現在は仏像を通して人間の素晴らしさを伝える仕事をされています。
仏像や人間に対しての思いをお話し頂きました。
(9月号より本会機関誌『全仏』表紙写真を提供していただております)

※インタビュー前半は『全仏』誌9月号に掲載しております。
『全仏』誌9月号はこちら(PDFファイル)


 

空気に触れる

戸松義晴(以下戸松)
様々な場所へ訪れた中で、何か苦労というか、困ったことはありますか。

仏像ガール®
苦労を感じたことは、あまりありませんね。
私は車の免許をもっていないので、交通手段がないところは歩いて向かいます。
ときには、2時間以上も歩いてむかうときもあります。
そういうのは、人から見れば大変だって思われるかもしれませんが、
歩きながら人々と挨拶したり、地域の空気に触れるのが楽しくて、苦労とは感じないですし…。

戸松
車で移動すると、目的地だけに目がいきがちですが、
歩いて回ると途中にお地蔵様があったりして。 

戸松義晴全日
戸松義晴(プロフィールは巻末記載)  仏像ガール®(プロフィールは巻末記載)


仏像ガール®
そうそう。

戸松
地域が大事にしているものがあって、そういうものと一体となって実はお地蔵様もあったり。

仏像ガール®
本当にそうなんですよね。
こんなとこにお地蔵様がいらっしゃった!っていう発見は本当にうれしいです。
仏様に対面するだけでも、もちろんすばらしい経験ができると思うのですが、
さらにその回りにある、仏様を大切にしている人たち、仏様と一緒に住んでいる人たちが、
こんなに優しいんだって思うと、より仏様も好きになっちゃうという感じですね。

戸松
なるほど。

仏像ガール®
歩きながらいろんな仏像や人と接する内に、
ずっと「人間なんて大嫌い」と思っていた私が、
いつの間にか「人間大好き」に変わっていたんですよ。
父が亡くなる前は、つっぱっていて。いじめもあって。

戸松
人を信用できない。

仏像ガール®
そうなんです。
友達なんていらない、一人で生きていけると本気で思っていました。
友情なんて薄っぺらだって感じていたんですね。
人間なんて…と思っていたのに、仏像に出会う旅をする中で、
私がすごく感動するときには、そこに必ず「人」がいるということに最近ようやく気がついたんです。
ちょっと遅いんですけどね(笑)。

仏像に「会う」

戸松
仏像をご縁として様々な方と出会い、人の思いを感じられたのですね。

仏像ガール®
そうなんです。
私がいつも皆さんにお話しさせていただくときには、
仏像を「見る」とか「鑑賞する」ではなくて、仏像に「会う」という言葉を使います。

仏像を美術のように、鑑賞物として見ている人たちが多くなっている一方で、
仏像を「難しい」とか「勉強しないとわからない」と感じている人もとても多いんです。

でも、私たちのおじいちゃん、おばあちゃんたちは、
きっと仏教のことをよく知っていたとか、仏像の知識がたくさんあったというわけではないんですよね。
仏様のことを信じて、ただ手を合わせていたのだと思います。

もちろん勉強したらとても楽しいし、それはすごく大切なことですが、
多くの人たちが難しいと思ったり「私は詳しくないから…」と一歩引いてしまうような
現状があるのであれば、そうじゃないよって伝えたいんです。

会いにいく。頭で考えるのではなくて、ただ人に出会うのと同じように仏様に会いにいけたら、
それだけで身近に感じられるかもしれないよって。
仏像を遠いと感じている人たちの背中を押せたらいいなって思います。


戸松
仏像に「会う」。仏像ガールさんの思いが伝わってくる言葉ですね。

今回から『全仏』誌の表紙をご依頼させていただきますが、ご自身の中でどのような思いを抱かれていますか。

仏像ガール®
そうですね。
私がもっているものや誇れるものって、あまりないんです。
仏像ガールといっても、仏像の専門的な知識がたくさんあるわけでもなければ、
お坊様のように修行をしてきたわけでもありません。

私がもっているのは、仏像に会いたくて歩いてきた経験と、
仏像が大好きだっていう気持ちだけなんです。
なので、背伸びすることなく等身大の私が感じた、仏様が生きている町の風景や、
人々のあったかさのような、仏像と人間が同居している日本の景色を
伝えられたらいいなと思っています。

戸松
なるほど。
人が感じられるあたたかみのある風景ですね。
先程おっしゃった「人間ってすごい」という感動が、
ご自身の活動を貫いていることがよくわかりました。

笑顔で迎えてほしい

戸松
様々な出遇いを経験されている中で、お寺さんやお坊さんに対する思いはありますか。

仏像ガール®
お寺様、お坊様に望むことはひとつだけで、笑顔で迎えてほしい!ということですね。
もちろん笑顔で迎えられることもあって、嬉しいときもありますが、逆にすごく悲しい思いをする場合もあります。
仏様はとってもにこやかなのに、その手前にいらっしゃるお坊様が笑ってなかったりすると、どうしてって。

戸松
そういうときもあるのですね。
他にはどのようなことを思いますか。



仏像ガール®
お寺や仏様について知りたいって思ったとき、
いつでも聞ける窓口をつくっておいてほしいというか、
心を開いていてほしいというか、そんなことを思います。
それが先程の笑顔で迎えて!という願いにつながるのですが。  

私自身もそういった経験があります。
聞きたくても、お坊さんがいないとか、お坊さんが知らないとか。
煙たがられた経験もありますしね(笑)。
誰かが、特に若い人たちが仏像やお寺に興味をもったら、
その芽を潰したくないなって思うんです。
できるだけ大切にしたい。そのために、お坊様の役割はとても大きいと思うので、
いつでも笑顔で迎えていただけたらなというのが一参拝者としての願いです。

仏教や仏像もみんなのご先祖さまがここまで大切にしていたんだよっていう心や想いが、
後世にも伝わっていったらうれしいですね。

戸松
なるほど。
お話をお伺いして、人生を仏像に捧げると。
そんな中で、私もお坊さんになろうと考えたことはありますか。

仏像ガール®
本当によく聞かれる質問です。最終目標はお坊さんですかって。
実は、出家したいと思ったことは一度もないんです。
修行や得度しないとわからないことは、たくさんあると思うので、
それを知りたいなという気持ちはなきにしもあらずですが。

考えてみると、私が仏像ガールとして活動できているのは、
お寺様や仏像と一般の方をつなぐ、その間にいられるからなのかなって。
間というか、一般の人たちの中にいられるからだと思うんです。
こんな女の子が「仏像好き」って言ってるんだったら、じゃあ私にもわかるかな、という感じで。

なので、仏像ガールとしては、一般の方の中の「仏像が好きな一人」としていたいなと思います。



ティック・ナット・ハンから思うこと

戸松
お話をお聞きして、ふと思ったことがあるのですが。
ティック・ナット・ハンはご存じですか。

仏像ガール®
いえ、はじめて伺いました。どのような方なのですか?

戸松
私がアメリカにいたときに出会って、私の人生が変わったというかね。それほどインパクトがあって。
ベトナム出身のお坊さんで、ベトナム戦争中に和平のために努力をした方です。
結果として、国外追放になって、今はフランスにいるんですけど。

ベトナム戦争の当時から、仏教のソーシャルサービスというんでしょうか。
目の前に、戦争で苦しんでいる人たちがいるのに、お坊さんが祈りという名の下に、
瞑想をしたり、御経を勤めているだけでいいんだろうかと考え、助けを必要としている人々を支援していらっしゃいました。

彼が言ったのは、中道ということで、南北ベトナムのどちらにもつかないということでした。
どちらにもつかないことによって、結果として両方から攻撃されましたが、
それでも中道がすごく大事だということを説いていました。
そういう経験を通して、月を指す指はいろんな指がある。
だからどの指が一番いいとか悪いとかを言い争ってはいけないということをおっしゃっていましたよ。

お話をお伺いしていて、思いをもって仏像と出会うことによって、
仏教を自然に感じられているのかなと。
私は仏教のすばらしさというのは、縁を大事にしていくと、そういうところに行き着くのかなと。

仏像ガール®
そうかもしれませんね。

戸松
ご自身が感じられた、自然な気持ちを伝えている方のお話が、
多くの方の心に響くと思います。是非これからもご活躍なさって下さい。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

仏像ガール®
こちらこそありがとうございました。



仏像ガール®(写真右)
1979年神奈川県出身。上智大学比較文化学部卒業。現在、仏像ナビゲータ、奈良国立博物館文化大使(本名ではなく、仏像ガール®として活動)。著書に「感じる・調べる・もっと近づく仏像の本(山と渓谷社)」等。


戸松義晴(写真左)
1953年東京都出身。ハーバード大学神学校において、神学修士取得。現在、浄土宗心光院住職、全日本仏教会事務総長他。著書に「Never Die Alone」「仏教ターミナルケア-エイズホスピス寺院から学ぶもの-」等。