世界経済フォーラム2014(ダボス会議)参加報告
国際交流
北河原公敬副会長 世界経済フォーラム2014(ダボス会議)参加報告
全日本仏教会として2度目の参加
2014年1月21日~25日、全日本仏教会副会長で華厳宗大本山東大寺の北河原公敬長老ご夫妻とともに、全日本仏教会を代表して、世界経済フォーラム年次総会(通称:ダボス会議)に通訳として参加させていただきました。全日本仏教会としてダボス会議に参加するのは、2010年、当時第28期会長の総本山金剛峯寺第412世座主・高野山真言宗管長の松長有慶猊下に続いて2度目です。
このたびのダボス会議では「reshaping the world(世界を再形成する)」というテーマのもと、世界中から政治家・経済人・学者、そして少数ではありますが、アーティスト・宗教家がスイス・ダボスの地に集い、さまざまなテーマについて議論や意見交換が行われました。日本からは安倍晋三首相や日銀の黒田東彦総裁をはじめ、政財界を中心に100名ほど参加され、海外からもイランのロウハニ大統領、イギリスのキャメロン首相、イスラエルのネタニヤフ首相など約2000人のリーダーが集まりました。
期間中参加した内容
21日:ソチ・オリンピックのレセプション(ロシア政府主催)
22日:セッション「拷問を撲滅させよう」(イギリス国教会)
私たちは、21日の深夜に現地入りして、本格的には22日の午後から行われましたセッションより参加させていただきました。
まずは現地のイギリス国教会にて行われた「拷問を撲滅させよう」というセッションから参加させていただきましたが、こちらでは仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、ユダヤ教などさまざまな宗教の代表によって拷問の撲滅に対してのスピーチと祈りがささげられました。
セッション「拷問を撲滅させよう」の様子
22日:安倍晋三首相基調講演
夕方には安倍首相が基調講演をされるということで拝聴しに参りました。今回のダボス会議では日本の首相が初めて基調講演をされるということで、会場は満員で、このセッションに合わせてスイスのブルカルテール大統領がスピーチされ、イランのロウハニ大統領もわざわざ来場されていたことからも注目度の高さが察せられます。
安倍首相はユーモアも交えながら全て英語で講演されましたが、講演後のシュワブ博士からの質疑で靖国神社参拝の話題が出て、海外でも関心の高さが伺えました。また、首相は、講演の中で今後日本が達成する課題についても触れていましたが、私個人として目標は高いほうが望ましいですが、果たして達成されうるのか、私たちの覚悟と行動力が求められる内容でした。歴代の首相演説は確実に達成し約束できることを述べられていたと思うのですが、今回のものは努力目標といったイメージで、首相の講演内容も変化してきている印象です。
23日:日本・アフリカ地域間交流朝食会
翌日23日には元国連難民高等弁務官の緒方貞子氏を中心に開催された、日本・アフリカ地域間交流朝食会に参加させていただきました。ガーナ大統領やルワンダ財務大臣などアフリカ諸国の要人ならびに日本政府要人の皆様と、アフリカに対するこれまでの日本の貢献ならびに今後の支援の在り方について話を進めて参りました。印象的だったのは、日本の長期的な、かつ国や地域をまたいだ支援が非常に高い評価をいただいているということ、そして、アフリカにおいても女性の社会進出が経済的にも社会的にも欠かせない、ということです。日本ではあまりアフリカ支援について報道はされませんが、現地の皆様からの評価は非常に高く、新鮮な驚きを覚えました。
日本・アフリカ地域間交流朝食会の様子
23日:日本企業主催「Japan Night」等
ダボス会議では前述のセッションだけではなく、各参加者といろいろな交流を図ることができます。セッションの合間にはダボス会議の主催であるクラウス・シュワブ博士や日本人として初めてアメリカ・MITメディア・ラボ所長になられた伊藤穣一先生など各界の皆様と懇談させていただきました。また、世界各国が自国をPRしようとレセプションを開催しておりますが、Japan NightやJapan Lunchといったイベントはお寿司をはじめとする和食の評価が非常に高く、ダボスでも一二を争う人気です。今回も600名以上の皆様がお越しになり和食を堪能されましたが、「食」は所属や立場を超えて輪を広げる力があり、日本の底力を垣間見ることができました。
北河原副会長とシュワブ博士
その他の個別面談
そして、今回のダボス会議で私が感じたもうひとつ大事なことは、世界の皆様が仏教に対して非常に期待されている、ということです。そしてそれは、いわゆる現在の指導者ではなく、特に20代や30代の若者からそう感じるということであります。
ダボス会議では、登録すれば誰でも参加できるオープン・セッション、招待された方だけが参加できるプライベート・セッション、そして、参加者の中から特にこの人に会って話がしたい!という人に個人的にコンタクトをとって面談するバイ・ミーティングというのがあります。
若手リーダーとの個別面談の様子
今回、北河原副会長に直接会ってお話をしたい、と世界中から個別ミーティングの依頼がありました。時間も限られている中、ご依頼があった、イギリス、中国、ニュージーランド、シンガポールの方と面談させていただきました。世界中の戦地で活動するNPOの代表、中国の政府機関で働いておられる方、オックスフォード大学で哲学を教えていらっしゃる方、いろいろな方が来られましたが、特徴は皆さん20代もしくは30代の方だったということです。
資本主義経済の煩悩にまみれた世の中で、仏教の教えをどのようにビジネスに生かしていけばよいか、戦争で敵味方に分かれてしまった方をどのように和解していただけばよいのか、そして日本と中国に代表されるように地域間の摩擦を解消していくには宗教や文化レベルでの交流が一番大事なのではないか、いろいろな質問がありましたが、北河原副会長はすべての質問に真摯に答えてくださいました。
私が特に印象に残ったのは、日中関係をどのように改善させればよいかという質問に対して、副会長が鑑真のお話をされたことです。今から1300年前、日本に仏教は伝わってはいましたが、「戒律」というものがなく、僧侶を承認する機関がありませんでした。そこで中国の高僧であった鑑真に、是非どなたか戒律を日本に授けていただける弟子を派遣いただけないかと要請に行かれました。ただ、当時は日中の往来は大変危険を伴い、弟子の誰もが二の足を踏んでいたのです。そこで鑑真は、相当なご高齢であったにも拘らず、それであれば自分自身で日本に行くと決断され、5回にも亘って難破などで日本への渡航に失敗し、その間に両目を失明されながらも日本にやってきてくださいました。まさに、日中交流のパイオニアであります。
そして、1300年の時が流れ、上海万博で東大寺の鑑真像を是非中国の皆様にもお参りいただきたいと、中国にお渡りになったことがありました。鑑真は江蘇省・揚州ご出身だったわけですが、それを聞きつけた揚州の共産党書記から是非鑑真像に里帰りしていただきたいと要請がありました。折しも、尖閣諸島問題が起きて、反日運動が最も大きくなっておりました。 一度は中止も考えられたようなのですが、揚州の政府からどうしてもお迎えしたい、という依頼があり、鑑真像が里帰りされたそうです。その際には北河原副会長も同行されたのですが、なんと街はみな大歓迎でパレードのように大勢の方が集まり、衛星放送で全土に中継されたようです。
日中の交流は1000年、2000年に亘って続いております。鑑真は1300年経った今もなお、こうやって日中の橋渡しをしてくださっています。尖閣問題に象徴される日中間の問題はここ50年~100年ほどの話であって、私たちはもっと長い目で交流をしていかねばなりません。
北河原副会長はこのようにおっしゃり、先方もいたく感動していらっしゃいました。日本と中国の政治家や学者が集まると、解釈が違うだの、そんなこと言っていないだの、結局いつもケンカになってしまって前向きな話し合いにならない。ある方がそうおっしゃっていました。
私も同感で、今回いろいろな方とお話しし、お考えを伺いましたが、実は、身近でずっとお話を伺うことができた副会長のお話が、私にとっての一番の収穫であり、心に残るものでした。そして、世界の皆様にとっても、それは同じだったと思っています。
中国政府で働く若手のリーダーは、
「今、中国は超のつくほどの資本主義にまみれています。残念ながら、文化大革命によって宗教や倫理観というものが根底から破壊され、私たちのよりどころはマーケットしかなくなってしまいました。しかし、高成長が終わろうとしている今、少数ではありますが、中国の若者で自分たちが失った大事なものをもう一度取り戻し、生きる指針を見つけたいと思っている人もいます。私は仏教を信仰していますが、ビジネスの世界にあっても、政治の世界にあっても、中国の皆様を正しい教えで導きたいと感じています。どうかこれからも、いろいろな教えをお願いします」
とおっしゃっていました。
最後に
このたび各界の皆様と出会うことができ、自分にとっても大変勇気づけられました。いろいろ難しい問題はありますが、私は自分たちの世代に大いに期待していますし、将来は悪くないと考えています。私も今回体験したこと、感激したことを忘れず、精進してまいりたいと思います。
今回、私どもに課せられた使命というのは、ともすれば短期的な狭い視野で議論されがちな政治や経済の分野において、信仰や宗教の力が世界の平和や繁栄のためにどう資することができるのか、仏教の智慧を参加された皆様方と分かち合うことにありました。
最後に、このような貴重な機会を与えてくださいました全日本仏教会の皆様や関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
執筆者 第30期国際交流審議会委員 松山大耕(臨済宗妙心寺派退蔵院副住職)
北河原副会長と小職